親に偽ろうとした私の、怒りの先にあるもの
父親に「いつも部屋で何してるんだ」と言われた。
一瞬のうちに、どう言おうか設定を考える。
働くことに前向きな姿勢を印象付けられる“勉強”というキーワードや、死にたいなんて思っていることを感じさせない、遊びである“ゲーム”が浮かぶ。
ここで重要なのは、嘘だとバレない程度にすること。いつもの自分とかけ離れていれば、興味を持たれて次の質問をされる。
無難で“私”らしい回答をしなければならない。
その“私”という奴は、親に逆らわない、自主性のない娘。それができれば、「へー」程度で終わる。
しかし今の私の状況は良くない。
3年目のニートだ。
何を言っても深入りされる気がして、悩んでいる間に時は過ぎ、結局私は何も言えなかった。
二度訊かれたが、親はそれ以上何も言わなかった。
心の中がモヤモヤした。
それは一人になるとイライラに変わって、
「鬱陶しいっつーの!」
と自分の太ももを叩くことになった。
親は私を、把握しておかなければならない子どもとして見ていて、一人の人間だということをわかってない。いつまでもガキ扱いしやがる。
そうして怒りを積み重ねる。
相手へ、
“私への扱い方を変えてほしい”
と利己的な押しつけをする。
そんな自己中心的な考えに気づいたときには、私の心は怒りで染められていた。
私が望む、幸福や思いやりの空気は、日常から消えていた。
何をしてるんだ、と自分を律した。
けれども、なかなか、怒りは消えなかった。
このまま毎日を怒りに満ちたものにはしたくないのに、私は父親を許せない。
認めるわけにはいかない。
···それが私の、正しさ。
今の私としての、譲れないこと。
少し視界が広がった。
私は怒りで、私らしさを守っていたんだ。
それなら、怒りでなくたっていい。
はっきりと言ってやればいい。
何をしていたかの事実ではなく、“言いたくない”という本音を、言えばいい。
相手が親だからといって、いつまでも、まごまごしてることはない。
あの父親が何を言い返してくるかなんて知れてることだけれど、自分を突き通せば、はっきりとわかるはずだ。
あの親に失望している自分に。
そうなったら切り捨てよう。
両親の離婚を望んでいた私だもの。ずっと前からわかってたはず。
この家は、出て行かなくちゃいけない。
帰る場所を持たずに、出て行かなくちゃいけない。
自分を犠牲にしてまで平穏を望む私だけれど、
そうしている私は、幸福ではないもの。