なんでこんな所に帰ってきたんだろう。
バイトからの帰り道、家が見えて、なんだか気持ちがぐにゃっとなった。
「(なんだろう···)」と、そのままに歩いていたら、あの家の中のことを思い出し、立ち止まった。
「(あれが、私の帰る場所なのか···!?
あんな所に帰るって、、え? “帰る”?)」
これが“帰る”って気持ちなはずがない。
あの家に帰っても安らぎはない。
嫌な気持ちになるばかり。
それをさっきまで忘れていたのは、嫌なことを、忘れられるようになったからだろうか。
あの家にいるくらいなら、仕事してる方が良い。
止まってられなくなって、ウロウロしだして、不審人物になっていることに気づき、また立ち止まった。
「···はぁ······(帰りたくない···)」
ため息と、本音が出た。
そわそわしていた気持ちが、しょぼんとして、少し落ち着いた。
このバイトでお金を貯めて、私は、1人暮らしをするんだ。そのための今。
···そんなのでは、納得できなかった。
未来のために今を犠牲にしていいのか。
立ち止まったまま、気持ちだけは急いでいた。
次の1歩を踏み出さなくちゃ。
その1歩は、確実にここから始まる。
帰るために動くわけにはいかなかった。
じりじりと、動けない時間が積み重なる。
「(今立ち止まっているのは、私が、帰りたくないと思っているから。だから、立ち止まっていていい。)」
自分の正直な気持ちを、認めようと、許そうとした。
ここには、私の意思を無視して命令する人はいない。
私が、私の意思のままにいることを、気に食わない人は、いない。
「(大丈夫···大丈夫······)」
···あの家には、いるんだ。
······いらないな、家族、親。
足を突っ込む、足を引っ張る、コントロールしようとする、怒鳴ってばかりで鬱陶しい。
このままだと“やっと死んだ”と思うときが来る。
できれば、もう少し、正常な人間が、親であってほしかった。
···あんなねちねちした所、うんざりだ。
もう、いいよ。
この家から出て行こう。
1人暮らし。
今からやっちゃえばいいんだ。
前向きになれた。今を犠牲にはしない。
私は、あの家から出るために、あの家に行く。
「よしっ」
1歩。
勢いよく歩きだした。