あの朝へ〈現在地フリーター〉

フリーター1年目(25歳、女性)による日記。

なんでこんな所に帰ってきたんだろう。


バイトからの帰り道、家が見えて、なんだか気持ちがぐにゃっとなった。

「(なんだろう···)」と、そのままに歩いていたら、あの家の中のことを思い出し、立ち止まった。

「(あれが、私の帰る場所なのか···!?
あんな所に帰るって、、え? “帰る”?)」

これが“帰る”って気持ちなはずがない。
あの家に帰っても安らぎはない。
嫌な気持ちになるばかり。

それをさっきまで忘れていたのは、嫌なことを、忘れられるようになったからだろうか。

あの家にいるくらいなら、仕事してる方が良い。


止まってられなくなって、ウロウロしだして、不審人物になっていることに気づき、また立ち止まった。

「···はぁ······(帰りたくない···)」

ため息と、本音が出た。
そわそわしていた気持ちが、しょぼんとして、少し落ち着いた。


このバイトでお金を貯めて、私は、1人暮らしをするんだ。そのための今。

···そんなのでは、納得できなかった。

未来のために今を犠牲にしていいのか。


立ち止まったまま、気持ちだけは急いでいた。

次の1歩を踏み出さなくちゃ。
その1歩は、確実にここから始まる。
帰るために動くわけにはいかなかった。

じりじりと、動けない時間が積み重なる。


「(今立ち止まっているのは、私が、帰りたくないと思っているから。だから、立ち止まっていていい。)」
自分の正直な気持ちを、認めようと、許そうとした。

ここには、私の意思を無視して命令する人はいない。
私が、私の意思のままにいることを、気に食わない人は、いない。

「(大丈夫···大丈夫······)」

···あの家には、いるんだ。



······いらないな、家族、親。
足を突っ込む、足を引っ張る、コントロールしようとする、怒鳴ってばかりで鬱陶しい。

このままだと“やっと死んだ”と思うときが来る。

できれば、もう少し、正常な人間が、親であってほしかった。

···あんなねちねちした所、うんざりだ。

もう、いいよ。
この家から出て行こう。

1人暮らし。
今からやっちゃえばいいんだ。

前向きになれた。今を犠牲にはしない。

私は、あの家から出るために、あの家に行く。

「よしっ」

1歩。

勢いよく歩きだした。